デイサービスセンターDay Service Center

 日総研グループ「通所&施設 地域包括ケアを担うケアマネ&相談員
 第8巻 第3号 2017年10月20日発行  

 

 日総研の大阪事務所の西本記者より5月末に「サービスに対して拒否を示す利用者の通所介護計画と支援の実際」について日総研グループ「季刊誌(通所&施設)地域ケアを担うケアマネ&相談員」に執筆依頼がありました。「ゆめ工房」の取組んでいる内容を広く知っていただく為に、掲載して頂くことにいたしました。 日総研グループは、会員制情報誌を24誌を発行しております。「季刊誌(通所&施設)地域ケアを担うケアマネ&相談員」は、高齢者福祉施設、通所サービス事業所の相談員が活用できる実践情報を提供しております。

 サービスに対して「拒否」を示す利用者様の通所介護計画と支援の実際

1.はじめに拒否のみられる利用者様の通所介護計画書立案で心がけていること。

 本人はもとより、家族にもしっかりアセスメントをすることは基本ですが、その前に認識しておかなければならないことがある。「拒否」という言葉の意味を調べてみると「自分に向けられた要求・希望などを、嫌だと言ってはねつけること」(デジタル大辞泉)とありこのことは「自分がしたくないことは、受け入れたくない」という当たり前の理屈です。
それならば、「要求」「希望」「願望」に応じたかかわりをすればよいだけです。

 当デイサービスの新規利用者は開口一番に言われることは「まだ(サービスの利用は)必要ない」が圧倒的に多く、それは目いっぱいのプライドであるのだということを理解しています。その方々が、今では「ここが無かったら寂しい」「お風呂も気持ちよい」「休みたくない」などのプラス発言に変わり、体調不良以外でのお休みはほとんどありません。
それは、放っておいて変化したわけでもなく、通所介護計画を綿密に完璧に作成したからでもありません。
まず支援者が本人から「(サービス利用について)拒否の理由を聞かせてもらうこと」、そして「しっかりと理解すること」から始まるのです。複数の回答を聞き逃すことなくつなぎ合わせると、その利用者に応じた対応を考えていくことができです。
当たり前のことですが、100人いれば100通りで、生まれも育ちも皆違うということを支援者が理解しなければなりません。そして、利用者一人ひとりが、気持ちよく受け止められる言い方や態度を覚えることが大切です。
 
 上記の事項を加味して、相談員を中心に介護職員、看護職員で徹底的に話し合いを重ねております。そして意図的な介入として、声かけの内容を統一するようにしています。
例えば「入浴拒否」の利用者様に「気持ちよいですよ」「着替えも手伝いますよ」とありきたりの声かけしても、心のない誘いには絶対に乗ってもらえません。
支援者の業務優先になればなるほど失敗を重ねてしまいます。挙句の果てに風呂場の近くを通るだけで「風呂なんか入らないよ」と言われてしまします。このような失敗は、関係修復に結構時間がかかり、利用者の清潔保持ができないばかりか、信用をなくしてしまう可能性があるので避けなければいけません。(経験して学びました)。

つまり、常日頃からしっかりとコミュニケーションをしとりつつ、具体的な実行目標を示すことが大事です。

 <事例1> 入浴を拒否される利用者様の通所介護計画と支援の実際

事例概要

A氏 年齢82歳 男性 
既往症 正常圧水頭症 アルツハイマー型認知症 高血圧症 糖尿病 心筋梗塞
家族構成:妻78歳 長女夫婦、孫二人 の六人家族
キーパーソン:長女

利用までの経緯

 長女が、弊社のケアプランセンターにお越しになり介護保険の認定申請の依頼があり、ケアマネジャーと相談員が市民病院の退院ケアカンファレンスに参加した。
医師より入院の原因になった正常圧水頭症について説明があり、脳室が大きくなっていたので髄液を抜きました。現状ではシャント術はしないで今後は定期的(6ヶ月)に画像診断を実施していくと治療方針が示された。
 家族からは、「本人はアルツハイマー型認知症と診断されており退院後は、自宅に閉じこもらず、定期的にデイサービスに行って他者との交流、運動をして認知症の進行を抑えて欲しい。温泉やスパー銭湯へ度々行っていたが、認知症になってからから自宅でも殆ど入浴をしなくなったので、デイサービスでは入浴をさせて欲しい」と依頼があった。

かかわりの実際

本人の意向、拒否の原因分析

 A氏のアセスメント(アセスメント1)より次のことが分かりました。
  ①元々は入浴が好きだった。(大事なポイントです)
  ②認知症を発症後から自宅での入浴をしなくなった。
   そして、A氏の通所介護計画を作成しました。(通所介護計画書)
 入浴拒否のある利用者に対しては「具体的な拒否の理由」を探ることからスタートします。
 デイサービスの「入浴拒否」の理由としては、概ね次のことが考えられます(その他にも、
 拒否する理由がいろいろと出てきますが、コミュニーケーションをとっていくうちに必ず共通項が
 見えてきます。)
  ① 「こんなに明るいうちから風呂なんか入られない」
  ② 「今は入りたくない」
  ③ 「多くの人の前で裸になるのが嫌」

 目標達成までは焦ることなく、徹底的にコミュニケーションをとりながら、入浴の声かけをするタイミングを模索します。最初は、絶対に丁寧な言葉遣いや態度で接するようにしなければなりません。語気を荒げていないか、顔の表情はどうかなど、すべてにおいての評価が8割満たされるまでは、コミュニケーション基盤を作ることに専念します。


 そして、もう一つ大事なことは、家族に(ケアマネジャーにも)意図的な介入である事の説明をして、理解いただくことです。最初は、軽くお誘いするだけにとどめています。そして、上記の理由を言われた時は100%共感し、返すとしたら「よいお風呂ですから、また見に来てくださいね」程度として深追いせずに、あっさりと対応します。
デイサービスの回数を重ねるごとに俗にいう「馴染み」の感情が芽生えた時に初めて、次の段階に進みます。(その人により期間は違います。)
A氏の場合は、来所されるようになって、二週間ぐらい経ち、周りの利用者とプロ野球の話で意気投合されて会話が弾むようになった頃に、職員ではなく、同席の利用者様に誘われて一緒に浴室へ行かれました。比較的スムーズに実現したケースですが、これがずっと続くとは限りません。(途中で拒否が出た時は、最初からやり直します。) 
その後、A氏は、仲良しの利用者様が不在の時にも入浴されるようになりました。

本事例のまとめ

 A氏のケースでは、入浴拒否の状況を観察して、入浴の楽しさを思い出してもらえるように常に焦らず、声かけを行いました。そのような状況を見ていた周りの利用者が自然発生的に職員と同じような声かけしてくれるようになり、A氏に入浴をしてもらえるようになりました。当デイサービスでは、その拒否の言動を理解し「スムーズに入浴してもらうにはどうするか」をミーティングで話し合い、拒否する理解と原因にかかわることが重要だと考え、利用者ごとにケアの方法を模索して実践しています。入浴支援が、利用者に対する支配、干渉にならないよう、これからも「拒否の理由を聞かせてもらうこと」そして「しっかりと理解」することを基本に、支援を継続したいと考えております。

 ゆめ工房では、その拒否の言動・行動を理解し「スムーズに入浴してもらうにはどうするか」をミーティングで話し合い、なぜ入浴を拒否されるのかを考えて、その理由、原因に関わることが重要だと考え、個々の利用者ごとにケアの方法を模索して実践しております。
入浴支援が、利用者に対する支配、干渉に変わらないよう、これからも「拒否の理由を聞かせてもらうこと」そして「しっかりと理解」することを基本に、支援を継続したいと考えております。

参考資料
アセスメント1   通所介護計画書

 

 <事例2> デイサービスに行くことを拒否される場合

事例概要

B氏 年齢83歳 男性
既往症 アルコール依存症 心房細動 アルツハイマー型認知症 右大腿骨頚部骨折
家族構成:独居 
妻75才精神科入院中(3年) 長男 疎遠 長女は毎日訪問
キーパーソン:長女

利用までの経緯

 B氏は三年前までは、妻の介護をしており、デイサービスの送り出をして日中は、買い物、食事の準備を行い妻に帰宅を待つ生活をしていた。夜間は、酒を浴びるように飲む生活を送っていた。その結果、十年前に完治したはずの「アルコール依存症」が再発した。3ヶ月の入院が必要との診断が下り、妻を誰がどのように見るかを家族間で話し合ったが、子供達の家庭の事情もあり介護老人施設に入所することになった。
3ヵ月後に退院され、妻を自宅で介護すると言われたが入所中から環境の変化もあり認知症状が進行してきたので介護老人施設から特別養護老人ホームへ入所することになった。
長女は、ご本人に現在の妻の状況を伝えられました。
 その後、B氏は、自分が「アルコール依存症」で入院した為、妻の認知症が進行してしまったとの思いを抱き、後悔の念によって何事にも無気力になり、自宅に閉じこもることが多くなり長女が心配されてケアマネジャーに相談された。ご本人に長女からデイサービスに行くことを促していただき週に1回来所されるようになった。

本人の意向、拒否の原因分析

B氏は、迎えに行くと体調が悪いなどと言い休むことが多いので、朝食と送り出しのため、訪問介護を導入しました。
長女は、孫を連れて実家に毎日訪問していましたが、閉じこもりと無気力状態に改善が見られないのと仕事と子育てもあり「父親の介護に限界がある。
父親の気力を取り戻すには、何が必要か」とケアマネジャーに相談しました。サービス担当者会議の開催し、長女、デイサービス、訪問介護の職員で話し合いの場を持ちました。。その結果、B氏の生活リズムを再構築することが必要であるとの結論に至りました。
 デイサービスの回数を週1回から4回に増やす、ホームヘルパーによる朝食準備とデイサービスへの送り出しを同じように増やす。長女の負担軽減のため、デイサービスへ行かない日の昼に訪問介護を導入して昼食準備と掃除、洗濯のサービスを導入することになりました。
(アセスメント2 通所介護計画書)

B氏の話を聴いていくうちに、デイサービス利用拒否の原因は、妻の認知症の進行と特別養護老人ホームへ入所になってしまったことは自分のせいだという「自責の念」があることだと分かりました。
そこから発生した感情に終着点は「寂しさ」だったのです。また、そこから逃げる手段としての飲酒にも大きな問題がありました。飲酒は新たな弊害と問題が加わります。
「一人で寂しい」とむせび泣くB氏の支援に必要なことは、ホームヘルパーによる朝のサービスでした。
「行ってらっしゃい」と手を振るホームヘルパーに見送られるようになってからは少しずつ酒の量は減り、今では何年来食べることがなかった朝食を摂れるようになりました。
生体リズムを修正する機会ができ、自律神経のバランスが取れたことが功を奏したのだと考えます。
訪問介護を導入することで、人の温もりが感じられたのだと思います。

本事例のまとめ

 その後、B氏の新しい楽しみとして孫さんの成長を見守るために、長女に車で孫の柔道の稽古の見学に連れて行ってもらうようになった。又、デイサービスでは、他の利用者様と囲碁をされるようになり、落ち着いて過ごされるようになりました。
退院後、ご本人を長女が母親の特別養護老人ホームへ面会に連れて行っていたが、帰ってくると自責の念が蘇るようなので、当面は連れて行かないことにしました。

 デイサービスのご利用は先月から長女のご希望通り週に4回のご利用になりごB氏は、「家に居ても何もする事がないし、デイサービスに行って囲碁とカラオケをすることが楽しみだ」と話しています。

参考資料
アセスメント2   通所介護計画書

 

 3.まとめと今後の課題

 デイサービスのご利用のスタートは、ご本人の意思よりは家族様の意向が優先されることが多いと思います。
入院して体力が落ちている場合、家では危険で入浴できなくなった場合、日中一人になるので家族様が心配と言った様々なケースがあります。

 冒頭でも述べたように、すべてが初めてで、どのケースも違いがあります。
さらに、キーパーソンの家族様との関係性、性格等も大事なポイントになってきます。
利用が決まったら、利用者宅へ訪問して、事前にアセスメントをしておく必要があることは言うまでもありません。
この点を相談員が職員に伝えながら会議を持ちます。弊社では、利用者様の性格や趣味・主に生活歴を中心に関わり方や、声掛けのシミュレーションを実施しています。(グループワーク)

 新規の利用者のほとんどが「(サービス利用に)気乗りがしない」という感情から入ることを支援者がしっかりと認識し、想像力を駆使して準備をすることが重要だと考えているからです。
デイサービスに来る目的を支援者が見出すことつくること、一緒に喜びを分かち合うこと、片方だけではなく両者が目標を持ち、今できることを精いっぱい行うと、次の課題が見えてくると思います。

 「通所介護&リハ(第13巻 第5号 2016年1月30日発行)」はこちら