デイサービスセンターDay Service Center

 日総研グループ「通所介護&リハ 第13巻 第5号 2016年1月30日発行

 一般財団法人日本総合研究所 (日総研)は、産業社会の高度化の過程で、行政や企業・病院などの組織体が必然的に直面させられる困難な問題の本質を究明、かつ問題解決のための考え方を学際的に検討し、創造的な発想で新しい理論や方法を開発することを目的に、1970年に設立された内閣府・経済産業省所管の公益法人です。
 1977年には日総研グループ(日総研出版、縁、日総研印刷)を結成され、生涯教育の使命を果たす教育啓蒙活動を通じて社会貢献されております。
 昨年、日総研の仙台事務所の米山記者より「中重度ケア体制加算に対するケアの実践」についての執筆依頼があり「ゆめ工房」の取組んでいる内容を広く知っていただく為に、掲載していただきました。

 中重度者ケア体制加算に対応するケアの実践

事業所の基本姿勢
 ゆめ工房(以下、当事業所)大阪府岸和田市に2006年6月に開設された
定員30人のデイサービスセンターです。
「利用者と家族の立場の理解」ができるデイサービスであり続けたい思いを忘れずに、利用者・家族とのかかわりを大事に「素敵な笑顔を1回でも多く」を願って
利用者が一日楽しく過ごせたと喜んでもらえる、温かい介護を実践しています。
また当事業所では、中重度ケア体制加算、認知症加算、個別機能訓練加算Ⅱ、サービス提供体制強化加算Ⅰを取得しています。

中重度の利用者に対するケアの考え方
 当事業所では、主治医の指示や疾患への影響がない限り、中重度の利用者も軽度の利用者と同じように過ごしてもらうことを基本にしています。
そして、ケアプランに基づいた通所介護計画を作成し、毎月末までに順次、各職種が合同でモニタリングを行い、在宅生活への支援、家族への支援、
認知症利用者に病状の進行を遅らせるケア、日常生活機能(ADL)に維持・向上、悪化の防止が計画どおり実施されているかを検証し、サービス内容の変更
継続を判断してケアマネジャーに報告しています。
また当事業所では、介護が必要になった高齢者が在宅生活を継続する為には、「認知症ケア」「中重度ケア」「リハビリテーション」の3つが重要であると考えております。
したがって、中重度認知症の利用者に対するケアの充実を図るため、職員を通常より2人以上多く配置し、個別ケアの充実を図っています。
職員体制は、管理者(介護支援専門員)相談員(社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、認知症介護実践研修終了)主任介護職員(介護福祉士、認知症介護実践研修終了)介護職員7人のうち5人が介護福祉士を取得(2人は認知症介護実践研修受講中)看護職員(3名)でサービスを提供しています。
(現在は介護職員の認知症介護実践研修修了者3人になっております。)

中重度の利用者の在宅生活を継続するための個別ケア
<事例1>
 Aさん、80代前半、女性、要介護3 緑内障のにより失明
   家族構成:長男と2人暮らし(日中独居)
 
*利用前
Aさんは両手引き歩行で、老齢になって緑内障で失明しました。
夫が他界し、失明と重なって、Aさんは何事に対しても前向きな思考ができなくなってしまいました。長男は時間が不規則な仕事で、最低限のことはする   が、本人と一緒に食事をすることはありませんでした。
そのため、Aさんは日常的に長男に対する愚痴が多く、将来に対する不安を抱え、「早く死にたい」と繰り返し、生きる希望をなくしていました。

*家族(本人)の希望
長男からは、本人は何事にも消極的なので、サービス担当者会議や職員ケア会議などで何か楽しみを見つけ、少しでも前向きになれることを探してもらいたいとの要望が聞かれました。

*支援目標
Aさんは人と会話をするのが大好きなので、孤独感の解消を図るため、他の利用者や職員と会話をする機会を設けました。また、「何かしていると余計なことを考えないから、何かできることをしたい」と話したため、タオルを畳んだり、作業レクリエーション用の花紙を丸めてもらつたりするなどの軽作業をしてもらいました。
さらに、頭脳レクリエーション(連想ゲーム、漢字当て、都道府県名ゲームなど)や頭を使ったゲームが得意なので、参加してもらうことにしました。
 
*具体的なケア
Aさんの座席は、気兼ねなく会話ができる利用者の隣にし、介助の際は職員が名前を名乗ってから介助に入りました。また、本人が着ている服の柄や色を職員が伝え、「似合っていますよ」などと伝えました。
送迎の際には、周りの風景を伝えて想像力を高める声かけをし、Aさんの座席のそばを通る際などは声かけをするように気をつけて支援しました。
Aさんは、体を使ったレクリエーションは「人目が嫌」「目が見えないので目立ちたくない」という思いから消極的なので、環境を整えることや声かけを重視し、参加を促すように努めました。
 
*現在の状況
これらの支援を継続的に行うことにより、Aさんは職員に対する感謝の言葉が増え、機能訓練に対する意欲が向上し、歩行のレベルもアップしました。
長男に用事がある時は本人から直接用件を頼むのに抵抗があるようで、職員に頼むことが多いです。Aさんは自分の状況を理解し、精神状態が安定してきています。

<事例2>
 Bさん、80代前半、男性、要介護3 脊椎管狭窄症、心筋梗塞
   家族構成:独居 長女は地方在住、次女は近隣在住
 
*利用前
Bさんは杖歩行で、性格は活動的で会話が好きです。独居のため、自分でやり過ぎることが多い(庭の草抜き、重い物を持ち運び)とのことでした。
体調管理には特に注意を払い、運動には貪欲で、自らノルマをつくって自己トレーニングメニューを行うなど、もともと努力家で「何が何でも頑張る」が基本姿勢としてありました。
一方で、思い込みが激しいため、一度思うと他者の意見を聞かないという面がありました。他者との交流では、独自先行型で会話の主導権を取ろうとするという特徴がありました。また、何事も自分の考えで進めるため、服薬も自分で調整していました。
 
*家族(本人)の希望
次女はこれまで同様、出来る援助は継続するが、洗濯や掃除は訪問介護を利用して、できる限り自宅で生活を継続してもらいたいとのことでした。
 
*支援目標と具体的なケア
デイサービスに定期的に通い、他者と交流を図ることにより、孤独感の解消と生活リズムを安定させることを目標としました。
地域の交流に参加するため、家に閉じこもる事はありませんが、Bさんは自分の考えをストレートに口にするので、デイサービスではほかの利用者に誤解が生じないよう、職員が付かず離れず確認するようにしました。
服薬は、市販薬を含めて過剰服薬や誤薬をしないように看護師が説明し、アドバイスしながらチェックしました。機能訓練は、機能訓練指導員が本人の状態を確認し、訓練内容を相談しながら、頑張り過ぎないように実施していきました。
 
*現在の状況   
デイサービスに来所してからは、他の利用者との交流が上手になり、認知症の人とも優しく接し会話を楽しむようになって、生活リズムが安定しています。

<事例3>
  Cさん 60代後半、女性、要介護4、脳梗塞右片麻痺、失語症
    家族構成:夫、長女夫婦、孫2人の6人家族
  
*利用前
病院を退院して1年が経過し、Cさんは意欲が減退し、車いすを利用していました。
デイケア(週3回)を利用していましたが、リハビリテーションを強制されている意識が強く、訪問リハビリテーション(週2回)でも同じ状態なので、ケアマネジャーが、本人が楽しみながらリハビリテーションに取組める環境にするため、2ヶ月前から当事業所の利用を開始しました。
  
*家族(本人)の希望
家族からは、リハビリテーションをして、自分の足で家の中を移動できるようになってもらいたいとの要望が聞かれました。
 
*支援目標と具体的なケア
意欲減退の改善と、楽しみながらデイサービスに行くことを目標にしました。また、Cさんは年齢が若いので、リハビリテーションを継続することにより拘縮の改善が図れることを理解してもらいました。さらに、職員との信頼関係を築き、生活リハビリテーションを楽しめるようにしました。 
 
*現在の状況
利用当初はすべてに拒否が見られました、施設の庭に出て、菜園を見て会話をしながら足のマッサージなどをして、精神の安定を図りました。
利用2週目に入るとCさんの表情が柔軟になってきたので、機能訓練の意識を感じないように、「おじゃみ(お手玉)」を使った訓練を開始しました。
麻痺側の拘縮を進行させないことも考慮し、トイレ時には車いすを室外に出して、職員の介助で移動できるようになりました。
家族からは、当事業所に行くようになってから表情が明るくなったと言われています。食事の状況は、主食は一口大のおにぎりを、副食は左手で箸を持って食べられています。

認知症の中重度の利用者のケア
<事例4>
  
 Dさん、90代前半、女性、要介護4 アルツハイマー型認知症
    家族構成:長男嫁と孫娘の3人家族 長男は数年前に死亡
  
*利用前
日中独居、歩行可能、周辺症状(被害妄想、作話、幻覚あり)
家族は認知症の状況に対して理解がありました。Dさんは周辺症状があり、日内変動で精神状態が異なり、激しく感情を言葉と態度に表すので、家族は常に眼を離せない状態が続いていました。
何事に対しても、自分の気持ちと一致しない時は断固拒否しますが、笑顔で何もかも受け入れる日もあり、感情の起伏が激しく、現実と夢が交互に出現することもありました。   
  
*家族の希望
家族からは、休息の時間が取れるので、介護疲れが出ないように、今後もデイサービスに継続して行ってもらいたいとの要望が聞かれました。
  
*支援目標と具体的なケア
介護者のレスパイトケアと本人の楽しみを作ることを目標にしました。昼食は、極小刻み+お粥で提供しており、本人は5分程度の時間をかけてかき混ぜ作業をし、畝を作るなどして調理や盛り付けをを楽しんでから食事を取っていましたが、食べることを忘れて長時間作業を続けることがあるので、そのような時は食事摂取を促しました。
体操や機能訓練、レクリエーションには意欲的なので、参加を促しました。また、他の利用者と会話をしている際は、職員が見守りながら会話に参加し、感情が高ぶらないように支援いたしました。

*現在の状況
最近は、周辺症状はあるものの、落ち着いて過ごす時間が増えています。いろいろな場面で多少の拒否はありますが、声かけによりスムーズに行動されるようになり、家庭でも家族が認知症に対して理解があるので、付かず離れずうまく距離を置いて介護をされているようです。家族も大らかに受け止めるようになり、家庭でも大きなトラブルがなくなったと言われています。

<事例5>
  
 Eさん、90代前半、男性、要介護3 自立歩行 アルツハイマー型認知症
   周辺症状(作話有り) 高血圧 ペースメーカー装着
    家族構成:妻、長女、孫娘の4人家族
*利用前
Eさんは、歯科技工士として家族を養ってきました。家長としてのプライドが高く、妻に対して高圧的な言動が多く見られてました。また、睡眠薬を服用して就寝しますが、夜間に覚醒すると再び睡眠薬を服用し、朝になると起床できない状態にありました。したがって、悪循環を防ぐために長女が薬を渡さないようにするのですが、Eさんが激怒するので、結局。薬を渡して服用するということを繰り返していました。そのため、生体リズムが乱れ、日中に長時間寝ることがありました。さらに、本人は人見知りがあるのですが、なじみになると積極的に笑顔で会話をします。しかし、相手の言葉が理解できず、被害妄想的に立腹することがありました。

*家族(本人)の希望
家族からは、規則正しい生活リズムを持てるような支援と認知症の進行を少しでも遅らせて元気に暮らしてもらいたいという要望がありました。
また、デイサービスではいつも笑顔で会話をしていますが、それとは裏腹に、相手が言っている意味を悪意に解釈することが多く、「デイサービスでこんなことを言われた」と立腹するので気をつけてもらいたいとのことでした。

*支援目標と具体的なケア
当事業所では、4人で1テーブルに着席してもらっています。そして、職員が4人の会話に注意を払い、勘違いをされるような内容の場合は、言葉の抜き差しをして、本意を伝えながら会話を継続できるよう支援しています。
例えば、相手が進めたことに「知らんと思ってバカにしている」といった解釈をする特徴があります。したがって、会話の内容を把握した上でコミュニケーション支援をしました。
午前中は、朝の体操、個別機能訓練、レクリエーションなどを実施するため、個別で会話をする機会は少ないですが、午後の入浴待ちの時間帯は同席した人たちが作業レクリエーションやカラオケを楽しんでおり、Eさんが疎外感を感じている様子だったので、オカリナやハーモニカなどの慰問の際に口ずさんでいる歌をチェックして、カラオケに誘うようにしました。
また、Eさんは元職の歯科技工士として細かい作業が得意なので、職員と一緒に牛乳パックを利用して足台を作成してもらい、完成させることで自信と役割を持ってもらうようにしました。

*現在の状況
Eさんは、定期的にデイサービスに来るようになり、自宅でも以前より明るく、元気で落ち着いた生活を過ごしています。また、家族やケアマネジャーと情報の共有を図り、状況の変化に対応しています。

ーーーーーーまとめーーーーー

一般的に、デイサービスの目的は次のような内容になると思います。

①在宅生活の継続支援
・自宅で自分らしく自立して暮らしたいと言う願望への対処
・当たり前に暮らせる権利の擁護
・自己決定できる生活の選択
・日常生活での役割の提供
・安心できる場の提供
・認知症特有の心の混乱防止

②家族への支援
・家族が休息できる機会の提供(レスパイトケア)
・家族の役割とデイサービスの役割分担により介護負担の軽減
・介護者の孤立の防止
(ケアマネジャーなどと連携を図り、介護者の孤独感を軽減する)

③認知症利用者の病状の進行を遅らせるケア
当時業所では職員のレベルアップを図るため、「認知症介護実践研修」の受講を進めると共に、定期的に社内研修を継続して実施しています。
私自身も、認知症の母親をした経験を生かし、ケアマネジャーとして、利用者・家族のケアについて相談に対応しています。
認知症の介護については、専門的な知識を基に適切なケアを家族と共に考え、一人で悩まず、解決策を導き出すことを基本にしています。

④日常生活機能の維持・向上、悪化の防止
・精神的な活力向上
・個別機能訓練の実施
各職種の職員が送迎などで利用者の自宅を訪問し、在宅生活を継続するための問題点などの把握に努め、利用者の個別機能訓練計画を作成する際には、各職種からの意見を盛り込んでいます。
また、在宅生活において転倒などのけがをしないよう生活リハビリテーションに力を入れており、個別の利用者に適した機能訓練計画を作成し、利用者または家族に説明し、同意を得て実施しています。
そして、3ヵ月後に機能訓練計画の評価・見直しを行い、再度、利用者または家族に説明し、同意を得て実施しています。
さらに、デイサービスの利用中には、送迎時の動作、食事動作、入浴動作、トイレ動作、レクリエーションなどの場面を想定して個別機能訓練のメニューを作成しています。その際は、生活機能の維持・改善を目的に、利用者・家族と相談しながら具体的な目標(例えば、一人で入浴する、一人で買い物に行くなどの個別の目標)を設定しています。
介護保険の目標である在宅生活の継続支援、家族への支援、認知症の進行を遅らせる支援、日常生活の維持・向上、悪化の防止を中心にサービスを実施し、当事業所の理念である「素敵な笑顔を1回でも多く」を願い、気持ちを込めた介護を実践し、中重度でも軽度者と同じ内容を実施することで潜在能力を喚起して、在宅生活の継続を支援しています。
そして、当事業所ではこれからもケアマネジャーをはじめ、関係事業所、医療機関などとの連携を充実させ、在宅生活を継続していく支援を実施していきたいと考えています。

 「通所&施設 地域包括ケアを担うケアマネ&相談員 第8巻 第3号 2017年10月20日発行」はこちら